旨味のある物語とは
この国で面白いファンタジー作家はだれか?と言えば上橋菜穂子さんだろうと私はおもう。
ほかにも梨木香歩さんや寮美智子さんなど、思いつくが力のうまく抜けた作家さんはこの人たちではなかろうか?という気がする。
力が入る、力む、など、ほかにもクセがある、エグさがある、強引な自分の意思で物語をどこかに連れていこうとすると、どうしても読んでいてキツくなったり、辛くなったり、果てはついていけなかったりする。
ファンタジーがなにを言いたいのか?それを作家さんが紡いでいき、言葉をつなげ書物という存在に仕上げる。作家さんではなく「ファンタジーさん」からのメッセージを読み解くのは、物書きの仕事のひとつかもしれない。
上橋菜穂子さんはむかし話を聞かされて育ったそうだ。以前、彼女の講演会を見に行ったが、その語り口調が引き込まれる感じがした。旨味のあるモノを上手く、受け継がれたんだな、と思った。「語り」が生きていた。
守り人シリーズ、ケモエリ、狐笛の彼方、隣のアボリジニー、鹿の王…底流している俯瞰した視点は、文化を限定的に言わない、連続した人の営みがあるように思う。
「これ」と言ってしまわないところが良い。○○はこうだ、とせずあたかもいつまでも続いていくような、生物としての人の文化をいつまでも見ているような、読み方ができるのも旨味があっていい。
狐笛の彼方なら、それほど長くなくて上橋菜穂子さんの紡ぐ物語観をエッセンスで、気軽に読める。守り人シリーズが長いと感じるなら、とっかかりがこれであっても、問題ない。